賃貸事務所は欠かせない
逆に読めば、先着順になっている公庫付き物件とは、広く告知し、そのうえで抽選したのに、結局、売れ残った物件ということになるわけだ。
「用語の一つひとつについても、われわれ業者が意図することと一般の人が思い描く内容との間にはズレがあるわけですから、『先着順!全住戸住宅金融公庫付き』という広告を目にして、売れ残りとも知らずに一目散に契約を済ませてくださるよう、お客にはいえない不動産屋の胸のうちなど、業者にとってありがたくて涙が出るようなお客さまはまだまだ多いですよ」。
不動産営業マンのこの言葉を、鼻で軽く笑いとばせる購入者が、はたしてどれだけいるだろうか?一、申し込み倍率に惑わされず、自分がどの住戸を一番欲しいのか、二、倍率の高い人気住戸について、なぜ高いのか、営業マンに説明を求める。
申し込み住戸を変更させようとする営業マンの誘いには乗らない。
各住戸の申し込み倍率を一律にするための営業トークの可能性大。
完成する前に売りさばく。
新築マンションの販売は青田売りが常套手段だ。
だが、そこに隠されたリスクの本当の高さに買い主は気づいていない。
他の購入者にバレないように値引き販売する方法、青田売り。
もともとこの言葉は、収穫高を見越して成熟する前に稲を売ってしまうことを指して使われていた。
それが不動産業界では、完成前の建物を売りさばくために考え出された販売方法を示す言葉として、あれよあれよという間に浸透したのだ。
平成年(一九九九)頃から、中には建物完成後の販売に踏み切る大手分譲業者も現れてはいるが、これはまだごく一部の物件だけだ。
現在もほとんどの分譲業者が、青田売りで新築マンションの販売に日々努力している。
青田売りにこそ、一日でも早く、一戸でも多く売買契約を済ませて、多少なりとも代金を受領することで、少しでも早く注ぎ込んだ事業資金を回収したいという、分譲業者の切なる願いが込められているのである。
もちろん青田売りは違法ではないし、それ自体、非難されるものではない。
けれども、それに付随する問題点が昔から絶えることなく指摘され続けていることも、また事実なのである。
つまりなにが問題かというと、大きくは二つある。
一つは、売り出してから建物が竣工引き渡しを迎えるまでの間に、販売計画の内容の一部が変化してしまうことがあるという点。
建物の仕上げ等に関する変更や価格の値引きに始まり、分譲開発規模の縮小、分譲住宅から賃貸併用や事務所併用というような建物の用途変更にいたるまで、購入者のあずかり知らないところで、分譲業者によって販売計画が変更されることがある。
もう一つの問題が、契約してから竣工引き渡しまでの間に買い主の払ったカネが、きちんと保全されているかという点。
建物が未完成のまま分譲業者が倒産でもした場合、手付金や中間金に対する保全措置にからんだトラブルが起きている。
まずは前者の問題、竣工引き渡しまでの間に販売計画の内容の一部が変化してしまうケースがある、ということについては、マンション分譲業者にもそれなりに言い分はあるようだ。
つまりマンションを買うというのは、区分された専有部分である住戸と、購入者すべてが共有して使用するエントランスホールや廊下といった共用部分をあわせて買うことであって、他の専有部分、つまり他の住戸を買うことではない、というのである。
であればマンション購入者の権利の及ばない他の住戸の価格をどう値引きしようと、用途をどう変更しようと、とやかくいわれる筋合いはない。
つまり法律上の責任はないはずだから、あるとすれば道義的な問題だけだ、というのがおおかたの分譲業者の主張である。
そうはいっても、業者とですでに契約済みの人たちとの間でもめごとが生じて得することはなにもないわけだ。
分譲業者は結局、こういう変更事項に関しては、いつバレはしまいかと内心冷や汗をかきながら、できるだけ内密に隠そう隠そうと努力するひともんちゃくがあることになる。
たしかに、ばれると一悶着どころでは済まなくなるのが、値引きの問題である。
この件に関しては、一時はニュースでも大きく報じられたことから、現在も、すでに契約済みの人、分譲業者、そしてこれから契約しようかという人の間に、戦々恐々とした張りつめた空気が漂っている。
いち早く契約を済ませたマンションが完成前に完売できなかったことから、分譲業者が新たな購入希望者に対して陰で不当な値引きをするのではないかと、入居済みの人たちが疑心暗鬼になっているのだ。
業者は業者で、表立って値引きを公表することで一日でも早く売り切ってしまいたい気持ちを抑えて、買う可能性がある人に対しては、エアコン設置の無料サービスを提案したり、買い主が取得する際に必要となる税金の一部を負担したりと、契約済みの人には極力ばれないようにと気を遣いながら、苦しまぎれの間接的な値引き提案に汗をかいている。
値引き販売については、売り主である分譲業者はすでに高値で買った人に対して損害賠償責任を負わない、とした判決もあることから、「値引いてなにが悪い」と強気な発言で開き直る業者もいるようだが、これはまだ少数派だろう。
一方、マンション購入検討中の当の本人は、もう少し粘ればさらになにか新たなサービスが付加されるのではないかと足元を見ながら、担当営業マンの顔色をうかがっている。
「それでも、前にくらべればずいぶんマシになりましたよ」ベテラン営業マンがいうには、世の中のマンションの在庫があふれるたびに、あまった在庫マンションを売りさばくにあたって、他の購入者に隠れてカゲでは個別に価格そのものの値下げがずいぶん行われてきたようだ。
そのときに誰が考え出したか、業者の間で公然と横行したのが、「ダブル」と呼ばれる手口である。
これは簡単にいってしまえば「二重契約」ということになる。
つまり売買契約書とは別にもう一通、念書を買い主が売り主に差し入れるのだ。
内容はいたって簡単、正式な売買契約書にある売買価格をいくらに下げることについて両者は同意した、というものだ。
ただし添え書きにはしっかりと、「買い主はここ面に関する内容を第三者にいっさい口外してはならない」という誓約が寵われている。
さらにこの念書は、買い主が分譲業者に差し入れるだけで買い主の手元にはコピーすら残さない、というのがミソなのだ。
買い主側にはいっさい値下げ行為の証拠となる書類は残さないように、分譲業者の営業マンは買い主に自分の目の前で念書に署名捺印させて、コピーも取らせずその場で回収するのである。
「今もってこの値引きの手口を使っているような業者なんて、さすがにもういないと思いますけど。
もちろん断言はできません」ベテラン営業マンがいうには、この値引きの手法も相手の選び方を一つまちがえると、業者自身が策に溺れることもあるのだそうだ。
うまくやったつもりが思わぬしっぺ返しを食ったというような話もあったらしい。
どこから見ても普通のOLという客にこの手で売れ残り物件を売りつけて、やれやれと業者が思っていた矢先に、彼女の内縁の夫と称する怖いオニイさんが登場、逆にゆすられてしまったという話もある。
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